【5分で簡易に認知症診断】あなたは家族信託・成年後見・遺言の作成はできる?~長谷川式認知症スケール~

 

認知症は単なる物忘れや老化現象とは違い、脳の神経細胞が破壊され正常な認知機能が衰えてしまう病気です。

残念ながら根本的な治療法はなく、うまくいって症状の進行を遅らせる程度とされています。

私たちが暮らす社会では認知症の急増と共に様々な方面でトラブルや問題が発生しており、相続や高齢者問題を扱う専門家も対応に苦慮する場面が増えています。

認知症は「判断能力の低下」という症状で現れますが、能力の衰え度合いを測り、評価するには一定の基準が必要です。

 

本章では、医師はもちろん弁護士や司法書士などもよく使う認知症の簡易判定法「長谷川式認知症スケール」について解説し、高齢者を取り巻く問題への対応を考えていきたいと思います。

長谷川式認知症スケールとは?

長谷川式認知症スケールとは、認知症の症状が出ているかどうかを簡易的に判断できるように考案された検査法です。

1974年に精神科医の長谷川和夫氏によって開発され、その後一部の改訂を経て現在も各方面で使用されています。

 

認知症の正確な診断には認知症専門医などの専門医師が個別に患者さんを診察する必要がありますが、日常的な言動などに即して、簡易的な診断ができるようにと開発されたのがこの認知症スケールです。

 

長谷川式認知症スケールのメリットとして、医師でなくても実施可能であるという点が挙げられます。

例えば日常で高齢者の介助をしている家族などが、被介助者の認知機能が衰えてきたかなと考えた時、長谷川式認知症スケールを実施して、認知症の疑いがあると分かった時には医師に橋渡しをすることができます。

司法書士などの専門家の利用シーン

特別な設備や器具がなくても簡易的な診断がおこなえるという特性を生かして、弁護士や司法書士、あるいは公証人といった相続、生前対策、認知症対策(成年後見や家族信託)に携わる専門家も、長谷川式認知症スケールを業務に利用しています。

 

例えば、司法書士がお客様から遺言書の作成を頼まれたケースでは、このようなことが想定されます。

実務でよくあるケースとして、遺言を残す高齢のご本人様ではなく、その周囲の家族が遺言書作成に関して相談してくることがあります。

 

「父も年になり、遺言書の準備をしたいと言っているのでお願いします」という具合です。

 

もちろんその父親本人の意思で遺言書を作成するというのであれば手伝うことができますが、家族が半ば無理やり連れてきて遺言書を作らせようとするケースもあります。

 

ご本人様(この場合は父親)の判断能力がしっかりしており、そのご意向にそって遺言書を作るのであれば全く問題ありません。

 

しかし、高齢者で判断能力に問題がありそうなケースも少なくなく、そういったケースでは家族の誘導で遺言内容を意識的に操作されてしまう可能性があります。

ご本人の意思に反して財産の承継がおこなわれることはあってはなりませんし、将来の家族間の大きなトラブルにつながります。

 

このようなリスクを回避するために、遺言を書こうとされる方の判断能力に疑問がある場合、司法書士などの専門家も必要に応じて長谷川式認知症スケールを使って対象者の判断能力を測定することがあります。

長谷川式認知症スケールの9つの質問

 

では長谷川式認知症スケールでは対象者の判断能力をどのようにしてチェックするのでしょうか。

この検査では9つの質問が用意されていて、それにどのように答えるのかによって加点式(30点満点)で評価していきます。

単純に答えを待つのではなく、ヒントを与えたり、状況によって質問が追加されるなどの工夫がなされています。

 

以下で検査の質問内容を見てみましょう。

質問➀:歳はいくつですか?

正解は1点、不正解は0点で、2歳までの誤差は正解に含みます。

質問➁:今日は何年の何月何日ですか? 何曜日ですか?

年、月、日、曜日、がそれぞれ1点分ずつの配分で、正解ならそれぞれ1点、不正解なら0点です。

質問➂:私たちが今いるところはどこですか?

ヒント無しに自発的に答えられたら2点、不正解が0点です。

正答がないときは5秒後に「家ですか?病院ですか?施設ですか?」のヒントを与え、その中から正しい選択ができれば1点です。

質問➃:これから言う3つの言葉を言ってみてください。

「あとの設問でまた聞きますのでよく覚えておいてください。」と前置きし、以下どちらかの系列の言葉を対象者に発話してもらいます。

系列1

a)桜  b)猫  c)電車

系列2

a)梅 b)犬 c)自動車

3つとも正解すれば3点、2つ正解で2点、1つ正解で1点、正解なしだと0点です。

質問⑤:100から7を順番に引いてください。

この質問⑤ではab二つの質問が用意され、aが正解の時だけbの質問が追加されます。

a) 100―7は?

b) それから7を引くと?

正解ならそれぞれ1点、不正解で0点です。

質問⑥:これから言う数字を逆から言ってください。

この質問⑥もab二つの質問が用意され、aが正解の時だけbの質問が追加されます。

a) 6―8―2

b) 3―5―2―9

それぞれ正解で1点ずつの配分で、不正解は0点です。

質問⑦:先ほど覚えてもらった言葉(問④の3つの言葉)をもう一度言ってみてください。

ヒント無しで自発的に答えられれば1つの言葉につき各2点ずつが加点されます。

ヒントとして「a) 植物 b) 動物 c) 乗り物」を与えることで正解できたら、各1点ずつ加点されます。

不正解は0点です。

質問⑧:これから5つの品物を見せます。それを隠しますので何があったか言って下さい。

この質問では1つずつ名前を言いながら並べ覚えさせます。

次に隠して、何があったかを答えさせます。

その際、時計、くし、はさみ、タバコ、ペンなど必ず相互に無関係なものを使うことに留意します。

一つ正解するごとに1点ずつ加算します。

質問⑨:知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。

答えた野菜の名前を記入します。

途中で詰まり、約10秒待ってもでない場合には打ち切りです。

10個以上の野菜の名前を答えられたら5点、9個なら4点、8個なら3点、7個なら2点、6個なら1点、5個以下なら0点です。

質問項目でわかることとは?

上記の質問項目は、それぞれ以下の能力判定を狙った設問となっています。

 1:年齢

 

 2:日時の見当識

 

 3:場所の見当識

 

 4:言葉の即時記銘

 

 5:計算

 

 6:数字の逆唱

 

 7:言葉の遅延再生

 

 8:物品記銘

 

 9:言語の流暢性

合計点による認知症度合いの判断

前項の質問項目9個に全て完全に回答できると30点満点となりますが、20点以下の場合は認知症の可能性が高いと判断されます。

参考までに、認知症の度合いごとの平均点を見てみると以下のようになります。

 非認知症:24.3点

 

 軽度認知症:19.1点

 

 中等度認知症:15.4点

 

 やや高度認知症:10.7点

 

 高度認知症: 4.0点

 

20点以下であっても即認知症と診断されるものではありませんが、認知機能の低下が疑われることから医療機関の受診が勧められます。

できれば認知症に詳しい医師がいる「物忘れ外来」などを受診するのがベストですが、まずはかかりつけ医に相談しても構いません。

 

状況に応じて、かかりつけ医が必要と判断すれば専門医を紹介してもらえます。

また21点以上となる場合でも、何か気になる症状があれば早めに医師に相談すると安心です。

認知症が怪しい…そんな方は今すぐに「生前対策」の検討をお勧めします

 

認知症は進行性の病であり、現代の医療では進行を遅らせることはできたとしても根本的に治すということができません。

つまり一度発症してしまうと、基本的に今後は症状がどんどん重くなる方向に向かうしかないということです。

 

相続や相続税対策は認知症になると多くの有効な対策を打つことができなくなります。

また認知症になると財産が凍結され、預金の引き出しができなくなったり、不動産取引ができなくなるなど非常に困った事態となります。

 

相続対策や相続税対策では、各方面との相談や契約を結ぶなどの手続きが必要になりますが、その際に求められるのがまさに「適切な判断能力」です。

この能力が衰えてしまったら、もはや対策を打とうにも打てないということになりますので、認知症を発症する前にどれだけ有効な対策を打てるかがカギとなります。

 

いちど認知症を発症してしまうとできなくなってしまう生前対策を挙げてみましょう。

①遺言書の作成

認知症で判断能力が低下し、遺言能力がない状態では有効な遺言を残すことができません。

遺言を残せないと遺産の分配をめぐって争いが起きやすくなりますし、相続税の負担軽減を狙った遺産分配もできなくなります。

自身の判断能力がしっかりしている時期に遺言書を作成する必要がありますが、ご高齢の方は後で判断能力の有無を疑われないように、判断能力に問題がない旨の医師の診断書とセットにして遺言書を作成するなどの工夫ができます。

②家族信託の利用

信頼できる身近な家族に財産を預け、必要な管理運用をしてもらうことができるのが家族信託です。

財産を預ける相手に所有権を移転する必要があり、契約ベースで手続きを進めるため認知症を発症してしまうと有効な契約を結ぶことができず、信託を成立させることができません。

家族信託は必ず認知症になる前に、十分な余裕期間を確保して調整を進める必要があります。

③任意後見の利用

任意後見は、自身が認知症等で判断能力が低下した後、必要になるであろう身上監護や財産管理について事前に身近な家族などにお願いしておくことができます。

ただしこれも契約ベースで手続きを進める必要があり、そのため認知症になると任意後見制度を利用することができなくなります。

一旦認知症を発症してしまうと、医学的に根本的治療が難しい以上、上記のような生前対策ができなくなります。

本人の財産は凍結され、残された手段は成年後見制度(法定後見)しかありません。

本人をリスクから守る力は強いものの、成年後見制度は使い勝手が悪く本人の家族に不利益をもたらすこともあります。

有効な生前対策を実行できるのは、認知症になる前しかないということを意識しておきましょう。

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