民事信託を検討中なら知っておきたい!リスク・デメリットとは?
民事信託については様々なメリットがあり、アメリカやイギリスでは既に一般的に活用されています。
日本でも高齢化に伴いテレビや新聞で取り上げられることも増え、最近では多くのご相談をいただきます。
最近流行りの民事信託ですが、メリットが大きい一方でリスクやデメリットもあります。
そうしたメリットとデメリットの両方をきちんと理解したうえで民事信託を賢く利用しましょう。
今回は、理想の民事信託を叶えるために知っておくべき基礎的なメリットとデメリットを紹介していきます。
民事信託のメリット
民事信託のリスク・デメリットを見ていく前に、まずは民事信託のメリットのうち代表的な3つを紹介します。
どうしてもリスクとデメリットだけが知りたい!という方はこちらのメリットを飛ばしていただくとすぐにデメリットに移りますのでそちらをご覧ください。
民事信託は遺言書や成年後見制度と違い、多岐にわたる内容にすることができます。今回紹介するメリット3つはその多様な運用方法を知る一例になるのではないでしょうか。
認知症による財産凍結を防げる
被相続人が死亡し相続が発生すると、金融機関で管理されている当人の口座が凍結されてしまいます。
相続財産が不正に引き出され使われてしまうのが防ぐのが目的の措置になります。
この措置と同様の理由で実行されてしまう口座の凍結として、相続発生前でも口座の名義人が認知症になり意思表示能力がないとみなされた場合、同様に講座を凍結されるというものがあります。
こうなってしまった場合、残された配偶者や同居する家族が生活費を引き出すこともできないという問題が発展することがあります。
こうした問題を民事信託で防ぐことができるのが一つ目のメリットです。
信託財産としてあらかじめ預貯金の管理を息子や配偶者に任せるという民事信託契約をむすぶことで、認知症や事故により本人の判断能力が低下した場合でも生活費や入院費として預貯金を利用し続けることができます。
またこうした認知症による財産の凍結は、預貯金以外にも、不動産・株式・債券・その他動産についても発生します。
家賃収入のある不動産をお持ちの場合や大量の株式をお持ちの場合でも、民事信託によって財産が凍結され不利益を被ることを回避できます。
後見制度よりも制約の少ない財産管理が可能
成年後見制度と比較した場合、財産管理の面で制約が少ないことが二つ目のメリットです。
成年後見制度は被後見人の「財産保護」が重要な目的となります。
基本的に本人の財産を守ることを目的としてるため、「可能な限り今ある財産を減らさない」という視点で管理が行われます。
そのため、余剰財産をもちいた投資、ポートフォリオの組み換え、不動産の管理・売却などはたとえ家族であっても行うことができなくなってしまいます。
その結果本来なら回避可能だった損失を被ったり、柔軟な資産管理ができなくなったりします。
また、成年後見人に家族以外の弁護士や司法書士などの士業資格者が選任された場合は、一定の報酬を払い続ける必要があります。
民事信託であれば、家族のみんなが望む形で信託契約を行い、柔軟に運用することが可能です。
例えば預貯金を任されていれば、受益者の利益を損なわない範囲で積極的な投資もできますし、事案に応じた柔軟な相続対策として財産の組み換えなども行うことができます。
当然ですが、成年後見のように費用を払い続ける必要もなくなります。
遺言書では叶えられない想いを叶えられる
遺言書は有効な生前対策の一手ですが、遺言だけでは実現できないこともあります。
まず遺言は相続発生後、つまりは被相続人の死後でなければ有効にならないため、生前の財産管理に関する点はどうすることもできません。
一方で民事信託は生前から信託契約を行い財産の管理を委託することができるため、相続に先んじて財産管理を次の世代に任せることができるようになります。
また遺言は相続した財産の使い方や使い道までは指定することができません。
被相続人のお願いや想いを伝えるために、「付言事項」という項目を作成することで使い道や管理方法などを相続人に伝えるすることはできますが、あくまでもお願いに留まってしまい法的拘束力はなく実際の使用方法は相続人にゆだねられます。
これが民事信託であれば、信託契約という契約に従って運用されるため、予め契約に自分の想いを反映させれば自分の死後も自分の想いのもとに資産を運用してもらえることになります。
民事信託のデメリット
民事信託は便利な制度なので、相続対策や認知症対策を民事信託だけで全て賄いたいという方が多いです。しかし、民事信託では法律上対策ができないことや民事信託ならではのデメリットがありますので、注意が必要です。
家族信託という制度を正確に理解して、自分の想いを叶えるためにもデメリットも確実に押さえておきましょう。
損益通算ができず税制上で損をする可能性がある
損益通算とは一定期間にの利益と損失を相殺することです。
この損益通算を用いることで、例えば「株式Aで発生した損益を株式Bで発生した利益で相殺する。結果として個人としての全体の利益は小さくなり、株式Bで発生した利益だけに税金がかかる場合より税金が小さくなる。」という形での節税が可能になります。
しかし例えば株式Aを家族に信託し、株式Bは自分で管理するというような形をとった際には損益通算ができなくなります。
たとえどんなに株式Aで損失が発生していて、どんなに株式Bで利益が出ていたとしても相殺することができなくなってしまいます。
そのため、株式Bの利益についてはそのまま税金がかかるようになります。その結果、全体で相殺した際の利益は変わらないにもかかわらず、民事信託を用いていなかった場合に比べて払う税金が高くなってしまうということになります。
「収益不動産の一部のみを信託したい」「所有株式の一部のみを信託したい」と考えている方は、このデメリットを念頭に置いたうえで信託契約を行いましょう。
民事信託で決めておくことができないことがある
相続対策や認知症対策として、予め「誰が何を管理するか」を決めることができる民事信託ですが、中には対策することのできない財産も存在します。
そうした財産に関しては、相続が発生してから改めて遺産分割協議を行う必要が発生します。
民事信託の信託契約を行うその瞬間に手元にない財産やそもそも法的に信託することが難しいものが主にそれにあたります。
ここでは中でもよく話に上がる3つの財産を見てみましょう。
民事信託で決めておけないこと①農地
農地は民事信託で対策するには難しい財産の1つです。
農地法が関係し、「農地を農地のまま民事信託に盛り込みたい」という場合通常の財産のように信託財産に入れることができない場合があります。
回避する方法としては、農地を将来的に宅地に転用する「農転」を行う前提であれば農地を民事信託の信託財産として指定できるというものがあります。
しかしこちらの農転は農業委員会の許可や農業委員会への届け出も行わなくてはならないため、民事信託との相性は良いものとは言えません。
遺言書で生前対策をすることもできるので、農地の相続についてのお悩みをお持ちの方はこちらのページを参考にしてみてください。
民事信託で決めておけないこと②年金
年金は現時点で手元にある財産ではなく、将来受け取る権利・財産であるため、民事信託の信託財産に含めて相続対策をすることができません。
このような場合は年金が振り込まれる預貯金口座そのものを信託することで対応することも可能です。
民事信託で決めておけないこと③遺留分減殺対象財産の順序指定
遺留分といって法律で決められた相続分がありますが、相続した分が決められた分よりも少なかった場合に請求できこれを遺留分減殺請求といいます。
このとき財産の調整があった場合には民事信託の効果が反映されません。
こうした財産調整により民事信託の効果がなくなってしまわないように、民事信託を行う際にはきちんと関係する相続人を含めた家族全員でお話しておくことをおすすめします。
また、そうしたトラブルになってしまい民事信託が台無しにならないように、まずは士業の専門家に一度相談することをおすすめしています。
ここまでデメリットを紹介してまいりましたが、デメリットを他の制度で補うことができるケースも多く、例えば家族信託で対策する財産と遺言で対策する財産を分けて生前対策とするケースもあります。
上記の農地についても遺言であれば相続対策ができますし、必ずしも家族信託のみで生前対策を完結させる必要もありません。
上記のような財産についても生前対策を行いたいと考えている方は是非一度ご相談ください。
税金の申告手続きが煩雑になる
家族信託で信託している財産から年間30,000円以上の収益が発生している場合には、通常の申告と別で「信託の計算書」と「信託の計算合計書」を提出する必要があります。
その利益が不動産所得であった場合には、不動産所得に関する明細書も提出する必要があります。
家族信託をしなかった場合に必要とされる申告よりプラスで申告を行わなくてはならないという点は確実に華族信託のデメリットと言えるでしょう。
しかし、この手続きさえやることができれば、認知症によって収益不動産が運用できなくなったり株価が暴落していくのに何もできないというような状況を避けることができます。
そう考えるとメリットのほうが大きいと考える方も多くいらっしゃいます。
専門家が少ない
相続分野とその周辺領域の諸問題に関しては、古くから相続対策、相続税対策などが検討され、各方面の専門家も参入して比較的成熟した分野になっています。
しかし民事信託については近年急激に注目を浴びるようになったため、顧客が抱える問題に対して的確に対応できる専門家が少ないのが現状です。
民事信託は従来の相続対策では実現できなかった問題も解決することができるなど、非常に柔軟性に富んだ優秀な制度ですが、その分扱い方も画一的ではなく状況に応じた活用の仕方を考える必要があります。
そのため、民事信託の専門家は民事信託という制度を十分に理解し、お客様が抱える問題に対して的確な提案をする能力がなければなりません。
民事信託を考える場合、普段から民事信託に力を入れている専門家を探して相談するようにしましょう。
まとめ
今回は民事信託のメリット・デメリットを解説いたしました。
みなさんがご存じのようなメリットの一方で一部デメリットがあることも紹介させていただきました。
参考になりましたでしょうか?
メリットやデメリットを知ったうえで実際に民事信託を行いたいと考えている方も多くいらっしゃるかと思います。そうした際にはぜひ一度士業の専門家にご相談ください。
民事信託は非常に多岐にわたる財産を多岐にわたる方法で信託できる制度になります。
その多岐にわたる利便性がゆえに、一般の方が民事信託を自分の思う理想の形で契約するのは難しいものとなっています。
家族信託に強みを持つ司法書士や行政書士は多くはないのが現実です。当事務所は家族信託のを多く解決してきた実績を持っております。
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