軽度認知症(MCI)になっても家族信託はできるの!?認知症×家族信託を徹底解説!
家族信託を行うときに必須の条件となるのが「正常な意思能力をもっていること」ですが、軽度認知症の場合はどうなるのでしょうか?
じつはこのようなケースでは場合によって家族信託を組成できるかできないかが変わることがあるので注意が必要です。
というものになります。
今回は「どういった場合に軽度認知症でも家族信託を行えるのか」「どういったところが要点となるのか」そういった疑問に詳しく回答していきます。
・基本的には認知症の際には後見制度を用いることになる
・しかし軽度認知症(MCI)の場合は家族信託を契約することができる場合がある
基本的には成年後見制度の利用になる
基本的には軽度であっても認知症になった際には成年後見制度を使うことになります。
ただし、後でも紹介するように必ずしも軽度認知症になったら家族信託が使えなくなるということではありません。
軽度認知症の方の中には、自分の資産管理を自分で行うことができたり、資産状況を正常に把握できる方もいらっしゃいます。
しかしながら、こうした軽度認知症の方が家族信託を行った場合、後にその家族信託の有効性をめぐって訴訟に発展するという可能性もあります。
そのため、たとえ家族信託を行うことができると判断されたとしても実際には家族信託は行わず成年後見制度を利用した方がよいというケースもあります。
「絶対に家族信託ができなくなる」というわけではありません
先ほども紹介したように、軽度認知症の方は「絶対に家族信託を利用できない」というわけではありません。
認知症というものは、骨折のようなケガとは異なり、症状に明確なラインや基準があるわけではありません。
当然ですが、この項目に当てはまったら軽度認知症と判断するというような判断基準は医学的には存在します。
ですが、軽度認知症の方がみな一様の症状を持つわけではなく、その症状の進行も徐々に少しずつ進行していくものになります。
ですから軽度認知症の方は必ずしも「意思能力がない」という形で家族信託ができなくなるというわけではなく、場合によっては正常な判断力を有するという判断のもとで家族信託を利用することもできるということです。
軽度認知症(MCI)でも家族信託を行うための条件
軽度認知症でも家族信託を契約することができるケースもあります。
そのためには以下のような条件があります。
判断力の有無
認知症の方は基本的には家族信託を締結することができません。
それは家族信託を締結するだけの判断能力が、認知症の方には十分にあるとはみなせないためです。
一方で、軽度認知症(MCI)でも判断力が十分にあると認定されれば、家族信託契約を締結できる可能性があります。
公正証書という形で、公証人立会いの下、契約する軽度認知症の方が契約内容をきちんと理解できていることを確認することができれば締結することができます。
要介護認定
「要介護認定」を受けている場合、家族信託ができないのではないかという方が一定数いらっしゃいます。
しかしながら、先ほども述べたように家族信託の締結の際に必要となるのは「意思能力・判断力の有無」になります。
身体的な介護の必要性が高かったとしても、判断力が十分にある場合には問題なく家族信託を利用することができるということです。
軽度認知症を疑うべき症状
今回は軽度認知症の方が家族信託を利用できるかどうかという点でお話を進めています。
最近両親の物忘れが目立つようになったと思う場合、すでに軽度認知症と診断される段階まで来ている場合があります。
この段階が家族信託を利用する最後のチャンスになりますので、軽度認知症の疑いのある場合には必ず早いうちに診断をもらい重症化する前に家族信託を組成しましょう。
以下が具体的に軽度認知症を疑うべき症状になります。
・記憶障害が認められる
・基本的な日常生活動作は正常に行える
・全般的な認知機能には異常はない
・明確に認知症とは診断できない
まさに「すこし物忘れがある」というような状態になります。
「ちょっと物忘れが出てきたな」と思ったら、今が家族信託のラストチャンスの可能性があります。
そうした際には、相続の専門家に相談し、将来的に家族信託契約の無効を主張されないような形で家族信託を契約することをおすすめしています。
軽度認知症の方が家族信託契約を結ぶ際の注意点
軽度認知症の方が家族信託を結ぼうとする際には以下のような注意点が存在します。
きちんと注意点に対する対策を講じて家族信託を利用しましょう。
相続に関わる家族全員の合意を得る
相続に関わることになる家族とは必ず合意を得ておきましょう。
家族信託を契約していたとしても、家族信託を依頼した本人が亡くなった際にトラブルに発展する場合があります。
一部の相続人が家族信託について合意していなかった場合、軽度認知症の方が行った家族信託契約の有効性をめぐって家族間でトラブルになる可能性があります。
事前に家族間で話し合いを持ち、合意を得ましょう。話し合いの際には、書面上で合意した旨を記録しておくとより安全です。
公正証書を作成する
家族信託の契約自体は契約書を用いることで成立します。
しかし、ただ契約書をかわしただけでは法的な有効性が薄いと判断されてしまう場合があります。
そうした形で有効性を疑われることを避けるために、公証役場で公正証書による契約を行うことをおすすめしています。
公正証書は公証人が立ち合いを行いながら作成するものになるため、法的な有効性を担保しやすくなります。
また、公正証書は公証役場に保管されるため、万が一紛失した際も公証役場で再発行を行うことができます。
さらに、公証役場に公正証書が保管されているため、契約書が改竄される心配もなくなります。
法定後見制度とは
認知症になった後には、生前対策として行えるのは後見制度のみであると冒頭で述べましたが、この法的後見制度・成年後見制度とは何なのでしょうか?
まずは後見制度の概要とメリットを紹介し、その後に後見制度のデメリットとそれを解決する手段を紹介していきます。
法定後見制度の概要
法定後見制度は、病気や認知症などによって判断能力・意思能力が失われてしまった際に、財産管理や身上監護を選任された後見人が行う制度になります。
家庭裁判所に対して、本人や家族が後見人の申し立てを行うことで選任されるという形です。
後見制度を用いることで、認知症になってしまった親の代わりにデイケアサービスのために預貯金を下ろしたり生活費として使用したりできるようになります。
一方で認知症で判断能力・意思能力を失った親の代わりに、後見制度を用いずに子の世代が親の財産を管理するというケースが散見されます。
しかしながら、公的後見制度を通さずに親の財産管理を勝手に行った場合、その後相続が発生した際に預貯金の使い込みなどにより他の相続人とのトラブルに発展する可能性があります。
「子だから勝手に使ってもいいだろう」ということではなく、たとえ親族であろうとも親の財産管理は法的な手段を通して行うことが最善であるということができます。
法定後見人制度でできること
法定後見制度でできるようになることは大きく分けて「財産管理」と「身上監護」の2つになります。
【財産管理】
・通帳やキャッシュカード、不動産の権利証などの保管
・年金、保険、預貯金などの管理
・銀行、郵便局、証券会社などの金融機関との取引
・不動産の修繕、管理、売却など
・遺産相続の手続き
【身上監護】
・家賃の支払い、賃貸借契約の締結・更新など
・生活費、水道光熱費、税金、施設入居費、保険料などの支払い
・病院の受診、入院手続き、支払いなど
・老人介護施設への入居契約手続き、費用の支払い
・介護サービスの利用や契約
法定後見制度を利用する手順
先ほども触れましたが、法定後見制度を利用するためには本人または家族が家庭裁判所に後見人の選任を申請することになります。
具体的な手順としては、
申し立て→調査・鑑定→審判→審判の通知→登記及び後見の開始
となります。
まずは4親等内の家族が家庭裁判所に後見開始の申立書を提出します。
申し立てが行われると、家庭裁判所側で調査官による申立人と後見人候補者に対するヒアリングが行われます。
また、当然ですが、後見人をつけられる方の判断能力や意思能力についてもヒアリングが行われます。
申し立ての内容や調査・鑑定結果を元に、家庭裁判所で審判が行われ後見監督人が選任されます。
その後に審判の通知が申立人と後見人に送られます。審判内容に不服がなければ通知から2週間後に審判が確定し後見人が誰になるかが確定します。
後見人の確定後、家庭裁判所からの依頼で法務局にて後見登記が行われます。
法定後見制度の三つの問題は家族信託で解決できます!
法定後見制度は認知症の発生後でも使用できる唯一の生前対策ですが、この法的後見制度には大きく三つのデメリットが存在しています。
それぞれのデメリットを概観し、全て家族信託で解決できるということを紹介してまいります。
デメリット①自由に財産処分ができない
後見人を選任することで、後見人によって財産を管理することが可能になります
しかし、すべての財産を自由に管理したり、売却・処分を行うことができるというわけではありません。
例えば、認知症になってしまった親に代わって、相続税対策として生前贈与を行おうとしても後見人にはその権利がありません。
法定後見制度はあくまでも被後見人の財産を保護することを目的としています。
そのため、被後見人の財産が減る可能性のある行為は一切認められていません。
その結果として相続対策の生前贈与は後見人には行えません。さらに、例えば被後見人が保持している株式・債券を代理で取引したりみだりに不動産を売却したりすることもできません。
被後見人にとってメリットがない、または必ずメリットにつながると言えない行為は一切認められないのです。
解決策:家族信託の利用で財産処分が自由にできるように
家族信託を利用することにより自由な財産管理を実現できます。家族信託では、財産管理の権利の一切を任せることができます。
そのため、委託者が判断能力を失った後には受託者の判断で財産を売却したり管理したりしても問題ないということになります。
当然、売却から得たお金は「両親の生活費に充てる」等、財産を託した人の指定した通りに運用されることになります。
デメリット②全ての財産が家庭裁判所の管理下になる
法定後見制度を用いた場合には、被後見人の財産は全て家庭裁判所の管理のもとに置かれることになります。
例えば、介護施設の入所料金を払う際に、後見制度を用いて両親の自宅を売却して費用を用意したとします。
そこで、
「両親の自宅を売却して資金を得るという目的を達成したから、もう後見制度はおしまいにしたい」
と思ったとしても後見制度をやめることはできません。
一度後見制度を利用した後には、自宅以外の預貯金や株式等の財産も全て家庭裁判所の管理下に置かれ続けるのです。
法定後見制度が終了するのは被後見人が亡くなった時のみです。途中で法定後見制度をやめることはできないのです。
解決策:家族信託を用いて予め管理を委託する財産を指定する
家族信託を用いることで、どの財産の管理を受託者に任せるかということを限定して決めることができます。
親の不動産のみ受託者になる子の世代に任せ、預貯金については親が自ら管理するという形も検討することができます。
このように財産の管理を非常に柔軟に任せることができるのが家族信託の特徴になります。
デメリット③法定後見制度では毎月費用がかかる場合もある
法定後見制度では、弁護士や司法書士などの士業資格者が後見人に選任される場合もあります。
こうなると、後見人に対して毎月費用を払わなければなりません。
費用の負担は被後見人が亡くなるまで毎月続くので、トータルで多額の費用がかかってしまうこともあります。
家族が後見人になった場合は費用を支払う必要はありません。
しかしこのケースでも、後見人に対して不正がないかを監督する監督人がつけられるので、結局この監督人に対して費用が発生してしまいます。
解決策:家族信託ならば運用コストがかからない
家族信託では、財産の管理を任せた受託者に対して費用を払う必要は一切ありません。
家族信託の契約を結ぶ際には契約内容のコンサルティングや契約書の作成、信託契約の登記などで初期費用はどうしても発生します。
しかし一度契約を結んでしまえばそれ以降は追加費用が掛かることはなく安心してその後の生活を送ることができるようになります。
家族信託が利用できるのかわからない方は
ここまで軽度認知症(MCI)の方が家族信託を利用できるのかを解説してまいりました。
その答えは利用できる場合とできない場合があるというものでした。
実際にご家族が軽度認知症の疑いがある中で家族信託の利用を検討している方は自身では利用の可否の判断が難しいかと思われます。
家族信託は圧倒的に後見制度に比べて使い勝手の良い制度ですが、軽度認知症の方の家族信託に限っては将来的に訴訟やトラブルの可能性をはらむものとなっています。
そうした危険性を解消するために士業の専門家に一度相談してみることをおすすめいたします。
家族信託は、「財産を預け安心して一生を全うする」ための生前対策になります。その生前対策がもととなって相続人や子の世代がトラブルに巻き込まれるということのないように対策をしましょう。
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